古い住宅やビル、倉庫などを解体するときは、原則として工事前にアスベスト(石綿)の事前調査が必要です。解体部分が80㎡未満でも、調査が不要になるわけではありません。
アスベストが確認された場合は、飛散防止措置を講じ、含有建材を原則として先に除去してから建物本体を解体します。必要な届出や費用は、建材の種類、工事規模、施工方法、自治体の条例などにより異なります。
発注前のポイント:設計図書、確認申請書類、改修履歴、過去の調査結果を用意すると、調査範囲や検体数を検討しやすくなります。
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解体工事におけるアスベストの基礎知識
アスベストは耐火性や断熱性に優れ、過去には多くの建材に使われていました。一方、その繊維を吸い込むと、石綿肺、肺がん、悪性中皮腫などの原因になることがあります。健康被害が長い潜伏期間を経て現れる点にも注意が必要です。
建材に固定された状態と、解体で切断・破砕された状態では飛散リスクが異なります。解体前に使用箇所を調べ、建材に適した方法で除去しなければなりません。
使用されやすい建材と築年数の目安
2006年9月1日から、アスベストを重量の0.1%を超えて含む製品の製造、輸入、使用などが原則禁止されました。それ以前に着工した建築物では、使用の可能性を考慮する必要があります。
ただし、築年数だけでは判断できません。在庫品や輸入建材、増改築の履歴も影響します。また、工作物に使われる一部製品には猶予措置があり、禁止時期が2012年まで段階的に設定されたものがあります。
| 建材の例 | 旧製造時期の目安 |
|---|---|
| 吹付け石綿 | 1975年頃まで |
| 石綿含有吹付けロックウール | 1987年頃まで |
| 石綿含有耐火被覆材 | 1978年頃まで |
| けい酸カルシウム板第2種 | 1999年頃まで |
| スレートボード・窯業系サイディングなど | 2004年頃まで |
| 煙突用石綿断熱材 | 2004年頃まで |
木造住宅でも、屋根材、外壁材、軒天、内装材、床材、接着剤などに使用例があります。
解体前のアスベスト事前調査
規模を問わず原則必要
建築物の解体・改修工事では、規模やアスベストの有無にかかわらず、原則として工事対象部分の事前調査が必要です。
- 設計図書や仕様書による書面調査
- 現地での目視調査
- 判断できない建材の分析調査
分析をせず、アスベスト含有建材とみなして必要な措置を取る方法もあります。
2006年9月1日以後に着工した建築物
2006年9月1日以後に新築工事へ着手したことを、設計図書などの客観的資料で確認できる建築物は、原則として書面による着工日の確認で調査を終了できます。
ただし、着工日を確認できない場合や、後年に改修・増築した部分がある場合は別途確認が必要です。工作物についても、猶予製品の使用可能性を踏まえて判断します。
調査できる資格者
2023年10月1日以降に着工する建築物の工事では、次のような有資格者による調査が必要です。
- 特定建築物石綿含有建材調査者
- 一般建築物石綿含有建材調査者
- 一戸建て等石綿含有建材調査者
- 所定の条件を満たす日本アスベスト調査診断協会の登録者
一戸建て等石綿含有建材調査者が調査できるのは、一戸建て住宅と共同住宅の住戸内部に限られます。
2026年以降の工作物調査
2026年1月1日以降に着工する工作物の工事では、対象物の区分に応じた資格者による調査が必要です。
反応槽、炉、ボイラー・圧力容器、一定の発電・変電設備、建築設備を除く配管などの特定工作物は、原則として工作物石綿事前調査者が調査します。
建築設備に該当する配管や煙突などは区分が異なる場合があります。また、太陽光発電設備と風力発電設備は特定工作物の対象外です。設備名だけで判断せず、厚生労働省「石綿総合情報ポータル」や所轄行政機関で確認してください。
分析調査が必要になる場合
書面と目視だけで含有の有無を判断できない場合は、試料を採取して分析するか、含有建材とみなして施工します。見積書では次の項目を確認しましょう。
- 採取する建材と位置
- 検体数
- 定性分析・定量分析の別
- 採取費、出張費、高所作業費
- 報告書作成費
「アスベスト調査一式」という記載だけでは、追加料金の条件が分かりません。

事前調査結果を行政へ報告する条件
次の工事では、調査結果が「アスベストなし」でも行政への報告が必要です。
| 工事の種類 | 報告基準 |
|---|---|
| 建築物の解体 | 解体部分の床面積合計80㎡以上 |
| 建築物の改修 | 請負代金合計100万円以上(税込) |
| 対象工作物の解体・改修 | 請負代金合計100万円以上(税込) |
報告者は原則として元請業者または自主施工者です。「石綿事前調査結果報告システム」を利用し、労働基準監督署と自治体へ報告します。100万円の判定には材料費と消費税を含みますが、事前調査費は含みません。
注意:80㎡は行政への報告基準です。80㎡未満でも事前調査は原則必要です。

レベル1・2・3と工法の違い
「レベル」は法律上の危険度ランキングではなく、発じん性を目安に建設業界で使われる便宜的な区分です。
| 区分 | 代表的な建材 | 主な措置 |
|---|---|---|
| レベル1 | 吹付け石綿、石綿含有吹付けロックウールなど | 隔離、負圧、集じん・排気、湿潤化など |
| レベル2 | 石綿含有保温材、断熱材、耐火被覆材 | 工法に応じた隔離・負圧、養生、湿潤化など |
| レベル3 | スレート、サイディング、成形板、床材など | 原形撤去を基本とし、必要に応じて湿潤化・養生 |
レベル3も規制対象です。割る、切る、削る作業で飛散する可能性があり、対策不要ではありません。
アスベスト解体で必要になる届出
特定粉じん排出等作業実施届出
吹付け石綿や石綿含有断熱材・保温材・耐火被覆材の除去などを行う場合、発注者または自主施工者が、原則として作業開始の14日前までに自治体へ届け出ます。
労働安全衛生法上の計画届・作業届
建設業・土石採取業の事業者がレベル1・2建材の除去などを行う場合、施工事業者は原則として作業開始の14日前までに、労働基準監督署へ計画届を提出します。
建設業・土石採取業以外の事業者は、石綿障害予防規則上の作業届が必要になる場合があります。業種と作業内容を所轄労働基準監督署へ確認してください。
建設リサイクル法の届出
特定建設資材が使われた建築物の解体で、解体部分の床面積が80㎡以上などの要件を満たす場合、発注者または自主施工者が原則として工事着手の7日前までに届け出ます。床面積だけでなく、特定建設資材の使用や工事内容も対象判定に関係します。
アスベスト関係の届出とは別の手続きです。自治体条例により追加の届出や近隣説明が必要になる場合もあります。
除去から建物解体までの流れ
- 発注者が図面や改修履歴を提供する
- 資格者が書面・目視調査を行う
- 不明な建材を分析する、または含有とみなす
- 調査報告書を作成し、発注者へ説明する
- 一定規模以上なら調査結果を行政へ報告する
- 含有建材に応じた作業計画を作る
- 必要な届出を期限までに提出する
- 現場掲示、近隣説明、養生を行う
- 含有建材を原則として先行除去する
- 除去時から区分に応じて廃棄物を梱包・表示・保管する
- 取り残し確認、清掃、隔離解除を行う
- 建物本体を解体する
- 許可業者が廃棄物を適正に収集運搬・処分する
- 写真を含む完了記録を作成する
構造上、先行除去が著しく困難な場合などは、法令に基づく別の工法が検討されることがあります。施工業者の自己判断ではなく、適用条件と作業計画を確認してください。

発注者・元請業者・施工業者の責任
発注者・所有者
- 図面、改修記録、過去の調査結果を提供する
- 適切な調査・除去に必要な費用と工期を確保する
- 発注者が届出者となる手続きを確認する
- 過度な低価格や短工期を求めない
- 届出控えや完了記録を受け取る
元請業者
- 事前調査と発注者への説明
- 一定規模以上の調査結果報告
- 作業計画、現場掲示、記録保存
- 下請業者への調査結果・施工方法の伝達
- 完了後の発注者への報告
除去・解体業者
- 隔離、湿潤化などの飛散防止
- 石綿作業主任者の選任
- 作業員への特別教育
- 呼吸用保護具や保護衣の使用
- 廃棄物の分別、梱包、適正処理
調査者資格と石綿作業主任者は、役割の異なる資格です。
アスベスト解体の費用
アスベスト関連費用に全国一律の公的な相場はありません。地域、建材、施工条件、分析方法、廃棄物量などで大きく変わるため、複数社へ同じ条件で見積もりを依頼しましょう。
費用を左右する要因
- 調査範囲と検体数
- 定性・定量などの分析方法
- 建材の種類と施工面積
- 除去工法
- 足場、高所、狭所の有無
- 隔離・負圧設備の規模
- 廃棄物の量と処分先
- 周辺環境や作業時間の制約
見積書で分けたい項目
- 事前調査費
- 試料採取費
- 分析費と検体数
- 届出・報告書作成費
- 足場・隔離養生費
- 負圧集じん排気設備費
- 除去施工費
- 安全管理費
- 清掃・取り残し確認費
- 収集運搬・処分費
- 建物本体の解体費
補助金・助成制度の確認方法
国の従来の「住宅・建築物アスベスト改修事業」は、含有調査や除去などについて令和7年度末までが着手期限とされていました。2026年度以降の継続・後継制度は個別確認が必要です。
自治体独自の制度も、対象建材、建物用途、募集期間、予算枠が異なります。契約・着工前の申請が条件になることが多いため、次の順で確認してください。
- 工事所在地の自治体へ制度の有無を確認する
- 対象建材と対象工事を確認する
- 交付決定前に契約・着工できるか確認する
- 調査報告書や見積書などの必要書類を準備する
近隣対策と作業員の安全管理
近隣説明では、対象建材、作業期間、飛散防止方法、作業時間、問い合わせ先を具体的に伝えます。
現場では法定掲示を行い、建材と工法に応じて湿潤化、養生、隔離、負圧管理などを実施します。作業員には、石綿作業主任者の配置、特別教育、適切な保護具が必要です。
工事中に疑わしい建材が見つかった場合
未調査の建材や調査結果と異なる建材が見つかったら、そのまま解体してはいけません。
- 該当部分の作業を止める
- 破砕・切断を避ける
- 元請業者と調査者へ連絡する
- 追加調査・分析、または含有扱いを検討する
- 作業計画や届出を見直す
- 必要な飛散防止措置を講じてから再開する
追加費用や工期変更の扱いは、契約時に決めておくとトラブルを抑えられます。
違法・不適切な工事を避ける業者選び
契約前に、次の資料や体制を確認してください。
- 調査者の資格証と調査可能範囲
- 石綿作業主任者の選任
- 特別教育の実施状況
- 建設業許可または解体工事業登録
- 事前調査報告書と検体採取位置
- 作業計画書
- 行政報告・届出の控え
- 廃棄物処理業者の許可
- マニフェスト
- 完了写真と取り残し確認記録
「調査無料」「すべて一式」としか書かれておらず、検体数や除去・処分費が分からない見積もりには注意しましょう。

解体前のチェックリスト
- 図面、確認申請書類、改修履歴を用意した
- 調査者の資格と調査可能範囲を確認した
- 調査範囲、検体数、追加料金を確認した
- 調査結果報告と作業実施届を区別した
- 自治体の条例と最新の補助制度を確認した
- アスベスト費用と本体解体費を分けて見積もった
- 近隣説明と飛散防止方法を確認した
- 廃棄物の梱包・保管・処分方法を確認した
- 完了時に受け取る書類を契約書へ記載した
FAQ
80㎡未満の住宅なら調査は不要ですか?
いいえ。80㎡は建築物解体における調査結果の行政報告基準です。事前調査は規模にかかわらず原則必要です。
2006年以降の建物なら調査しなくてもよいですか?
2006年9月1日以後に新築着工したことを客観的資料で確認できる建築物は、原則として書面による着工日確認で調査を終了できます。ただし、後年の改修部分や工作物の猶予製品には注意が必要です。
分析調査は必ず必要ですか?
必ずではありません。書面と目視で判断できない場合は、分析するか、アスベスト含有建材とみなして必要な措置を取ります。
アスベストが見つかると解体できませんか?
適切な作業計画、届出、飛散防止、廃棄物処理を行えば解体できます。通常は含有建材を原則として先行除去します。
2026年も補助金を利用できますか?
国の従来事業は令和7年度末が着手期限とされており、2026年度以降は継続・後継制度の確認が必要です。自治体独自制度も含め、契約・着工前に自治体へ問い合わせてください。
まとめ
アスベストを含む可能性がある建物の解体では、有資格者による事前調査を行い、必要に応じて分析、行政報告、届出、先行除去を進めます。
見積書は調査、除去、処分、本体解体を分け、資格証や届出控え、完了記録まで確認することが重要です。制度や自治体条例は変更されるため、契約前に厚生労働省「石綿総合情報ポータル」、環境省「石綿事前調査結果の報告について」、工事所在地の自治体サイトで最新情報を確認してください。